長相思 塗山璟の復活と修羅場

小夭が帰ってくると相柳からの知らせで、小夭の為に部屋の設えも左右対象にしたりして工夫を凝らして待っているソウゲン。

毛球が送り届けてくれたのは辰栄府でした。塗山璟がいるからでしょう。

37年間も小夭の後追い自殺して死にかけたままで寝たきりです。

本当に、さっさとちゃんと死ねよ。

暴言ですが、この狐、諸悪の根源めいてきました。

ずっと介護している侍女や侍者が気の毒。ちゃんとお礼を言ったかしら?使用人だからと当たり前で気にもしてない感じだったよね。

ちゃんと死んでいれば、この先の不幸は無かったし、八方丸く治ったのに。

小夭もペットロス症候群を患うだろうけど、子供でも産めば忘れます。

 

ソウゲンが怒るのも無理ないよね。まあ、一番最初にソウゲンの安否を確認したと聞いて、少しは気が治ります。

そして、軍がととのったのですが兵糧が無いので、軍が動かせません。軍事物資、これは一番大事なのです。そしてこれを調達出来るのは塗山璟

だけ。

優しい赤水豊隆は資金だけでなく幼馴染の親友として塗山璟の回復を願っていますが、

ソウゲンの心の中は、必死で

これは金蔓!金蔓!と自分に言い聞かせていることでしょう。

 

ま、手厚い小夭の看護のお陰で、塗山璟は意識を取り戻します。

この寝ている狐がもっとむさ苦しい髭面の男だったら、看護も気が乗りませんが、中の人が、美男子だから絵的にも耐えれます。

私の夫の父親は何年も進行性の脳萎縮で寝たきりで亡くなったのですが、綺麗な老人だったので看護師さん達からも人気がありました。色白でシミ一つない綺麗な肌で顔も男前でした。

私も義父には季節毎や会う度にブランド物のシャツなどを買って着てもらっていましたが、何を着せてもよく似合うので、私も色々と選ぶのが楽しかったです。脳以外に悪いところがなかったので最後までニコニコと苦痛もなく眠るように大往生だったのも幸いでした。

やっぱり男性も美男子だと死ぬまで得をしますね。

ところで、目覚めた塗山璟は早速、資金と物資の調達を引き受けます。

ここで、ついに塗山璟は塗山家に帰って身分を捨てる決意を表明します。

そして、あろうことか、小夭を愛していることを赤水豊隆に告白します。37年間寝たきりだったのは後追い自殺するつもりだったからで、生き返ったからには小夭は譲れないと。

 

赤水豊隆は机をひっくり返して殺してやると激怒します。

 

私の屋敷で私が恋心を小夭に寄せていることを知りながら、誘惑していたのかと。

 

ね、私が一番心配していた修羅場となりました。

こんな良い人を裏切る行為は許されるものではありませんよ。

深く深く二重にも三重にも赤水豊隆を傷つけたわけですから。

 

何で告白するかなぁ。

資金を握っている自分を殺しはしないだろうと今こそ、告白できるチャンスと踏んだか?

小夭を盾にしていないと言いながら、そろばん弾いて、脅迫しているでしょう。

本当に見下げ果てたクズ男です。

自分のことしか考えていない。親友を騙している良心の呵責を取り去って楽になりたいだけで、子供の頃からの親友を切り捨てたのですから。

本当に酷い上っ面だけの人間ですよね。

長年に渡る友情もドブに捨てられた赤水豊隆の気持ちを思うと気の毒で可哀想でなりません。恋云々よりも、親友と思っていた男に自分の今まで捧げた気持ちをズタズタにされ、何の値打ちもないかのように捨てられたからです。

ソウゲンの言うなよ〜って目が、わからんのか?

それで、私の屋敷から出ていけと塗山璟は追い出されます。

小夭は塗山氏でないただの璟でも、そもそも出会ったときは何者でもない葉十七だったから平気よと。

そりゃ、あんたはそうでしょうよ。

ペットに何も求めたりはしないよ。

一方、ソウゲンは何故、「塗山璟なのだ?お前には相応しくないし、性格も合わないだろう」と聞きます。

小夭は留守の間にソウゲンが西炎山に植えて育てた鳳凰樹の林の中でブランコに乗りながら、塗山璟を選んだわけを話します。

何回も人に見捨てられたから、ずっと側にいると言ってくれる人が良いの。一緒に死んでくれたから。

何回、裏切られても期待しなければ傷も少ないと。

もし、塗山氏を捨てれなくても、信じて待っていると。

 

結婚するのにどうやって俺のそばにいるつもりだ?と聞くと、結婚してもソウゲンのそばに住むわ。と言って、ソウゲンも納得します。愛玩犬を飼っていると思えば許せそうです。

 

一国の公主の結婚の場合、色々なパターンがあります。

政略結婚で他国の王の妃になる。

自国の大貴族や重臣正室となる。

駙馬と結婚して公主府をたてる。

塗山璟が最初に考えていたのは、駙馬としてコウレイ国王から許可を貰う、パターンですね。

駙馬なら高い身分や能力や才能は必要ないから。塗山氏では、駙馬が良いところでしょう。商人ですから。

でも、塗山氏を捨てるとなると、もう、これはよく言って愛人扱い。従者や召使。まさにペット扱いでも良いという事です。

でも、小夭は誰と結婚しても良いとのお墨付きがありますから、一応、結婚は出来ますが、実質は駙馬以下です。

小夭も酷いよね。本当に愛しているなら、私ならそんな事を相手に求めません。自分の寂しさを紛らわす為に側に縛り付けておく愛玩用の奴隷ですよ。

ペットなら、ペットの幸せの為に散歩に行ったりツガイの相手を探してやったり、出来るだけ好きなようにさせるから、ペット以下ですね。

所詮、小夭の中では塗山璟は二番手なのですよね。

出来ることなら防風北に附馬になって貰えたら、それが一番最高なのだけど、相柳は私と結婚してくれるだろうか?

愛してるとか言ってもらったことがないけど、防風北なら、前に一緒に旅に出ようって誘ってくれたし。可能性はある。

でも、洪江への義理と孝行を捨てて私を選んでくれるか、自信が全然ない。

高貴で最強な相柳を貶めることは出来ないし、私のために防風北でいてとは言えないよね。

 

狐と蛇の扱いの差は天地の差があります。

 

ファジー理論が働いて、人は最高のものより二番手三番手を選ぶ傾向があります。

最高のものを求めても得られない時のダメージから身を守る防衛本能が働くからだそうです。

最高級(相柳)のものを見て知ってしまった今、拒絶される事を恐れて二番手の(塗山璟)を選んでしまっている小夭です。

いつも相柳には置いていかれているし。待っているのは私だけ。

やっぱり、無理よね。捨てられたんだよね、私。

だから、絶対置いていかないと言っている塗山璟を待っている。今度こそ、裏切らないよね?と。

 

で、実家に帰った塗山璟ですが、案の定、お祖母様から、猛反対されます。小夭の身分が高すぎるので、塗山氏の嫁には相応しくない。

璟は族長になる運命である。自分の命はあと半年だから、早く族長就任の儀式を済ませよ。と言い渡されます。

やっぱり、璟は正嫡子なので、血脈的に最高なのかな?

 

で、見事に玉砕。

口で言うだけじゃなく、そのまま出奔すれば良かったのよ。そしたら、兄に族長の座が転がり込むのだから。

兄も怒ってましたね。譲られるのは屈辱ですよね。何で生き返って帰ってくるんだ?と思ったでしょうね。ちゃんと死ねよと。氏族を捨てるのなら、帰って来るなと。

からしたら、いちいちやる事が腹立つよね。

私は何なのだと。37年間、弟が死に損ねたせいで、代理の身分でずっと切り盛りしてきたのに。

帰ってくるなり、これか?

 

みんなが思っているぞ、本当にダメなやつと。

今回、塗山璟は友も家族も周りの人全ての心を傷つけました。自分にとっては何の値打ちもないんだよと言った事に等しいです。

 

なんだか、こうしてみると小夭と塗山璟の二人は生還する値打ちが果たしてあった人間かどうか、怪しくなってきました。

まあ、関係ない人達から見たら修羅場ってて、凄く面白いんですけど。

 

塗山璟の族長就任は避けられない事となったようです。

ソウゲンのいう通りに、人材登用ミスですね。

塗山氏も小夭も上っ面だけが欲しいので、その条件は合っていますけど、果たしてそれで本当に良いのか?

もっとふさわしい奴はいっぱいいるよ。

なんで、わざわざこんなクズを選ぶかな?

ソウゲンが思うように、私も不思議でたまりません。